珈琲

海の見えるテラスはいつも騒がしい

そこにある全ての人に、それぞれの別の時間が流れている

「私達は全員違う世界に生きている」そんな風に考えているのは、今この場で私だけだろうか

 

夕方に近い空よりは鮮やかで夜の海よりは明るい色のシャツを着た老父のハンチング帽

彼を通り越した先のテトラには釣り糸を垂れる男、それを真似る二分の一程の背丈の小人

 

段々と日が落ちてくる

海に近づくたびに朱くなって、光が横に拡がる

 

夕方の雲は、日が水平線に消えてからの方が赤い

私には見えなくなった日も雲には見えているらしい

 

夏がきたらもっと騒がしくなるのだろうか

この場所の夏を知らない

 

ソフトクリームのセットドリンクはホットの方がいい

水出しコーヒーの氷少なめは野暮だ

看板では烏がねらっている

テーブル横のフェンスには雀があそぶ

 

胸のすぐ横にある焦りを嘲笑っている

「そんなものは捨ててしまえ」

 

私は思う、自分を大切にできるのは自分だけなのだ

誰でも知っているはずなのだ

 

思い出せと潮の香りがした