無題

3年ぶりに見た祖母の肌は綺麗で、閉じた瞳のまつ毛は相変わらず長かった。

少しだけ頬がこけただろうか、横たわっているから肉が流れているだけかもしれない。

でも、きっと痩せたんだろうし、体も細く小さくなったような気がする。最後に会った時もこんな感じだったっけかな。

 

まじまじと顔を見ても、やっぱりその長いまつ毛とくっきりとした鷲鼻は印象的で父に似ていた。

父にも似ているし、姉にも、兄にも、私にも似ていた。

こんなにちゃんと顔を見たのは久しぶりだった。

 

知らせを聞いた時は、なんとも言えない気持ちで、悲しいと心から思えなかったことが少し寂しかった。

 

幼稚園の頃は思い出せなくて、小学生の時は友達みたいな人だった。

父と母には内緒でたくさんお菓子を買ってくれて、父と母に怒られるから出来ないこともたくさんやらせてくれた。

サンタクロースの正体に気付いた時、祖母に相談したら

「ばあがパパとママに聞いといてやるから、心配しないで。聞いてみるからね」。

その翌日、

「やっぱりパパとママは違うって。サンタさんはちゃんといるんだよ」

と教えてくれた。

 

中学に上がる頃になると、父と祖母の微妙な関係が苦々しかった。そして私が祖母の介護をするようになった。家族だから、ばあは私のことが大好きだから、当たり前だった。

中学生の私は祖母をお風呂に入れ、身体を洗い、拭いて、乾燥しないように全身にクリームを塗り、服と靴下を着させてやって、小遣いをもらった。

 

高校生の時にやっと、それが自分のストレスになっていることに気づいた。ばあが私に執着していることにも。そして介護を辞めた。

ばあは泣きながら、直接言って欲しかったと言い捨てた。

 

人間としては、どうしようもない人だったんだと思う。

家族じゃなかったら、相容れないから関わらなかった。

でも、彼女は私の家族だった。

どうしようもない人だったけど、彼女は彼女なりにたくさん私を愛してくれたし示してくれた。

 

死んだから、こんなことが言えるんだ。

生きてたら私は、彼女はどうしようもない人間だと言い続けている。

なぜ死ぬことでこんな簡単に美化されてしまうんだろうな、アホらしい。くだらない。悔しい。

 

末孫でたくさん可愛がってくれた。本当にたくさん可愛がってくれた。たくさん、受け取った。

 

毎回毎回多すぎるお小遣いをくれた。

 

素直に、たくさんの愛をありがとうと言えないことが悲しい。

彼女はもういないから、何を思ったとしても届くわけじゃないから、ばあにありがとうなんて言わないし言えない。

 

生きてる間にもう一回くらい話したかったような気もする。

そしたら嘘でもありがとうって伝えられたのに。

もう何を思っても、何も届かないし、偽善で美化した独りよがりなことを言っても、その空虚に自分がやられるだけなんだ。

嘘でも偽善でもなんでもいいから生きてるばあに大好きってどうにかして伝えればよかったかもしれない。

何年も、私の中から追いやってしまっていたけど、ばあがいて私がいるよって、それくらいのことは本当に思ってるから。

 

別に後悔しているわけじゃない。強がりじゃなく、本当に後悔はしていない。

すこしモヤモヤするだけだ。きっとずっと消えない。消えないでほしい。

 

楽しかったことだけじゃなく、覚えていようと思う。思い出せる範囲で、時々思い出すから。

 

またね、って思ってないから。

私が生きてる限り、彼女は私のおばあちゃんだ