ポカンポカン

仕事が終わって帰り支度をして外に出る。

今日は早番だったから、まだ今日が終わらないでいてくれた。

 

日が明るい。夕方ではなく昼間の空だ。

一面曇りだけど明るい。

 

駅に向かって歩く15分間。

立ちっぱなしだった足の気怠さとは裏腹に気持ちはあがる。

歩くのはけっこう好きだ。何がとは言えないが好きだ。

耳馴染みのいい音を聴きながら歩く時もあるし、車の音を聴きながら歩く時もある。ただただ歩いてるだけのことも。

 

思考や喧騒とは関連せずに脚はただ進む。

肉体と意識は別概念なんだなーなんて、実感もする。

 

目線のちょうど真ん中に白い線が入ってきた。

ぼーっとしてどこかに行ってた意識がここに返ってくる。

 

あれ、雨かな。でも他はまだ降ってないけどな。

 

なんて思っているうちに雨粒がすぐ横の川面を揺らし始めた。

 

ぼたぼたの雨だ。

すごく気持ちの良い雨。

 

粒の大きいぼたぼたの雨。ひとつぶひとつぶが身体に当たるのを感じる。滴るほどには降ってない。

 

最高のきぶん。傘は持ってるけどさしたくなかった。

 

こんな気持ちの良い雨は浴びた方がいい。絶対に気持ちいい。

 

しとしと降る雨は服が濡れてまとわりつく。ザーザーの雨もびしょ濡れになってしまう。

でも、雨の粒を感じる雨は気持ちがいい。

 

ぼたぼたの雨はなんて表現すればいいんだろう。

大粒の雨、ではなんとなく情景が足りない。

 

ふと川面を見る。雨粒が大きいから、ひとつひとつが立体の弧を、孤の波を作っている。

弧波、って言葉ないかな。ないな。弧波じゃちょっと、あの可愛らしさがないもんな。

そう、すごく可愛い。ぼたぼたの雨がつくった川面の模様がすごく可愛かった。

 

とても気分がいい。

 

頭に原裕子の歌声が浮かんだ。

 

『ポカン、ポカン、ポカン、と雨が降る』

 

あ、これだ。この川に、この気持ちのいい雨はポカンポカンと降っている。

身体に当たる雨はぼたぼただけど、川に沈んでいく粒にはポカンポカンがしっくりくる。

 

素敵だな。いい音。

レイニーナイトインブルーな場面とは全然違うけど、きっと降っている雨は一緒だ。

 

くすぐったいみたいに心が笑ってる。

そっとイヤホンを取り出して耳に付け、サザンを探した。